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札幌高等裁判所 昭和58年(ネ)320号 判決

昭和五八年(ネ)第三二〇号事件控訴人

小池壽男

右訴訟代理人

水原清之

田中燈一

同年(ネ)第三三一号事件控訴人

北海交通株式会社

右代表者

米子岩三郎

右訴訟代理人

山根喬

冨田茂博

被控訴人

宇佐美セチ

右訴訟代理人

能登要

武部悟

主文

1  原判決中、控訴人小池壽男の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人小池壽男に対する請求を棄却する。

3  控訴人北海交通株式会社の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、控訴人小池壽男と被控訴人との間では第一、二審とも被控訴人の負担とし、控訴人北海交通株式会社と被控訴人との間では、控訴費用を控訴人北海交通株式会社の負担とする。

事実《省略》

理由

一事故の発生〈省略〉

二責任原因

1  〈省略〉

2  そこで控訴人小池の責任について判断する。控訴人小池が乙車の保有者であつたことは当事者間に争いがないところ、控訴人小池は、乙車は谷寿計(以下「谷」という。)に窃取されたものであり、本件事故当時乙車の運行支配、運行利益は控訴人小池に帰属していなかつた旨主張するのでこの点について検討する。

〈証拠〉によれば、

(一)  控訴人小池は、昭和五六年六月六日午前三時ころ、乙車を運転中空腹を覚えたため、札幌市南区澄川四条三丁目にある澄川ベンダーショップ(無人販売店)で備付けの自動販売機により供されるそば(即席食品)を食べようと考え、運転していた乙車を同店入口前路上に駐車したが、短時間でそばを食べた上直ちに乙車に戻るつもりであつたため、エンジンはかけたままにしておき、ウィンカーと停止燈を点燈したままドアをロックすることなく乙車から離れたこと、

(二)  控訴人小池は、右ベンダーショップ内に入り、同店舗奥の乙車から約一五メートル離れた位置でそばを食べ、約三分後に乙車を駐車させた場所に戻つたところ、乙車は既に谷に盗まれており、直ちに最寄りの交番に乙車の盗難を届けたこと、

(三)  右ベンダーショップの附近には他に商店等はなく、右のころ、同店前道路には、自動車の往来はあつたものの、通行する人影はほとんどない状況であつたこと、

(四)  控訴人小池が右ベンダーショップ内で食事をしていたとき、同店内には他に二、三人の客がいたが、同店入口には半透明のドアがあつたため、店内からは駐車中の乙車は見えなかつたものの、乙車のウィンカーの点滅は確認することができる状況にあつたこと、

(五) 谷は、前同日の午前三時近くまで友人宅で遊び、札幌市南区澄川二条一丁目にある自宅に帰る途中、右ベンダーショップ前路上に、エンジンをかけたままの乙車を発見したが、周囲に人影がなかつたため、乙車を盗み、これを運転して同市から六〇キロメートル以上の距離にある苫小牧の友人宅へ行こうと決意し、無施錠のドアを開けて乙車に乗り込み、乙車を運転して苫小牧へ向つたこと、

(六) 谷は、その後乙車を運転して苫小牧に行き、女友達を誘つて苫小牧市内をドライブし、同日朝方から同日昼過ぎころまでは、同市内の友人宅でシンナーを吸い、又は睡眠をとるなどして時を過し、その後、乙車を運転して女友達とともに支笏湖までドライブした上、右友人宅に戻つて睡眠をとり、同日午後六時ころからは、他の友達も誘つて再度支笏湖までドライブし、その帰途、乙車の窃取から約一八時間後である同日午後八時五〇分ころ、本件事故を起すに至つたものであること、

(七) 谷は、控訴人小池とは親族関係、友人関係その他の人的関係の全くない第三者であつて、乙車を乗り捨てる意思で窃取したものであり、控訴人小池に乙車を返還する意思を有していなかつたこと、

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件事故当時乙車を運転していた谷は、控訴人小池とは人的関係の全くない第三者であつて、乙車を専ら自己の用務に使用した上乗り捨てる意思で窃取したものであり、本件事故は、谷が乙車を窃取してから約一八時間後に発生したものであり、しかも、谷は、その間運転を継続していたものではなく、谷の運転は、睡眠等のために数回中断していたものであり、また、本件事故現場は、乙車が窃取された札幌市内から六〇キロメートル以上も離れた苫小牧市で発生しているものであつて、右認定の事実関係の下においては、たとい、控訴人小池に乙車の管理に万全を尽くしていなかつたということがありうるとしても、本件事故当時、乙車の運行を支配していたのは谷であつて控訴人小池はこれを支配制御しうる地位にはなく、また、その運行利益も控訴人小池には帰属していなかつたものと認めるべきである(なお、前認定の控訴人小池が乙車から離れた理由、時間、離れた際の乙車と控訴人小池の距離及び位置関係等に照らすと、小池が客観的に第三者による乙車の運行を容認したものということはできないものというべきである。)。

よつて、被控訴人の控訴人小池に対する自賠法三条に基づく請求は他に判断を進めるまでもなく失当である。

〈以下、省略〉

(奈良次郎 藤井一男 柳田幸三)

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